ドラッグストアで管理薬剤師と店長を兼務するときつい理由は、要領ではなく2つの職責が同じ時間を奪い合っているからです。薬機法が管理薬剤師に課している義務と、会社が割り振った店の仕事の切り分け方、職場を選び直すときの確認点をまとめました。
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読者からの相談ドラッグストアで管理薬剤師と店長を兼務しています。日中は調剤室にいるのに、売場が混むとレジに呼ばれます。鑑査の途中で呼ばれることもあります。閉店後は発注とシフト作成と本部への提出物で、帰るのはいつも遅いです。売上が届かないとエリアマネージャーに詰められるのに、人件費は増やすなと言われます。調剤も店も、どっちも中途半端になっている気がして。これは自分の要領が悪いだけなんでしょうか。
📌この記事のポイント
- ドラッグストアの店長兼務がきついのは要領ではなく、2つの職責が同じ時間を取り合うから
- 薬局の管理者は薬剤師でないと務まらず、法定の義務は店が忙しくても減らない
- 渡す余地があるのは会社が割り振った店の仕事。1週間の記録を材料に1つだけ交渉する
まず結論:きついのは段取りのせいではない。渡せるのは会社が割り振った店の仕事
先に答えを言うておこう。ドラッグストアで管理薬剤師と店長を兼務するのがきついのは、相談者さんの要領が悪いからではない。2つの職責が、同じ時間帯を奪い合っておるからじゃ。
同じ時間帯を、奪い合う……。仕事が2倍になっている、という話とは違うんですか?
そこが肝心なところじゃ。足し算ではなく取り合いでな。鑑査をしとる最中にレジへ呼ばれる。シフトを作るために調剤室を出る。発注の締め切りと投薬のピークが重なる。どれだけ手際よくやっても、どちらかが必ず削れる。
……それは、うまくやれば両方こなせる、という種類の忙しさじゃないですね。
ないんじゃ。しかも管理薬剤師の職務は法律で決まっておって、店長の仕事がどれだけ増えても、そちらが減ることはない。だから「両方を頑張る」という解き方は、そもそも成り立たん。
順に見ていこう。兼務は違法ではないこと、それでも管理薬剤師の義務は減らんこと、法律が決めておるのはどこまでか、記録を取って1つ渡す交渉の仕方、そして変わらんときに職場をどう選び直すか——この5つじゃ。
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先に確認:同じ店舗で店長を兼ねること自体は、法律違反ではない
まず、期待を持たせてから外すのは申し訳ないので、先に確かめておこう。「兼務は法律的にダメなのでは」という線から攻めるのは、残念ながらうまくいかん。
えっ、そうなんですか。管理薬剤師って兼務が厳しく制限されている、と聞いたことがあります。
その話の元になっとるのは、医薬品医療機器等法——薬機法の第7条第4項じゃ。e-Gov で条文を引くと、「その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事する者であつてはならない。ただし、その薬局の所在地の都道府県知事の許可を受けたときは、この限りでない」と書いてある。
「その薬局以外の場所で」……あっ。禁止されているのは、よその場所で働くことなんですね。
うむ。別の店舗を掛け持ちすることを制限した条文でな。同じ店舗の中で店長を兼ねることを、この条文は禁じておらん。
都道府県に「兼務許可」の申請があると聞いたこともありますけど、あれも……。
あれは、その薬局以外の場所で薬事の実務に就くときの手続きじゃ。社内の「店長」という肩書きを兼ねること自体は、この許可の対象ではない。混同されやすいところじゃから、覚えておくとよい。
ということは、「違法だから店長を外してください」とは言えないんですね……。会社は堂々と兼務させられる、と。
悔しいがそうなる。じゃが、足場が何もないわけではない。同じ薬機法の、別のところに書いてあるんじゃ。
それでも、管理薬剤師の仕事は1ミリも減らない
ここからが本題でな。兼務が合法であることと、2つの職責が軽くなることは、まったく別の話じゃ。
法律が管理薬剤師に課している義務は、店が忙しくても変わらない
薬機法の第8条第1項は、薬局の管理者の義務をこう定めておる。「保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その薬局に勤務する薬剤師その他の従業者を監督し、その薬局の構造設備及び医薬品その他の物品を管理し、その他その薬局の業務につき、必要な注意をしなければならない」とな。
従業者を監督して、設備と医薬品を管理して、業務に必要な注意をする……。けっこうな量ですね。
そしてこの量は、売場が忙しい日も、そうでない日も同じなんじゃ。セールで店が回らん日だから今日は監督せんでいい、とはならん。
言われてみれば当たり前ですけど……忙しいほうに引っぱられている間も、こっちの義務は減らずにそこにあるんですね。
さらに第7条第3項では、管理者は第8条の義務を遂行するために「必要な能力及び経験を有する者」でなければならん、とまで書いてある。少なくとも法律は、管理者を「義務を果たせる人」として置くことを求めておるわけじゃ。
果たせる状態が前提……。じゃあ、果たせない時間割になっているとしたら、それは頑張り方の話ではないということですね。
出どころが違う2つを、並べてみる
よい整理じゃ。ところで管理薬剤師と店長は、よく「店長のほうが上の役職」と説明される。じゃが、この2つは上下ではない。
仕事の出どころがそもそも違うんじゃ。法律が課しておる管理の義務と、会社が割り振った店の仕事を並べてみよう。
薬局の管理者としての義務と、会社が割り振った店の仕事:出どころの違い
| 薬局の管理者としての義務 | 会社が割り振った店の仕事 |
|---|
| 出どころ | 薬機法(第7条・第8条) | 会社の社内規程 |
| 担い手の資格 | 薬剤師でなければならない | 薬剤師免許は要らない |
| 主に見るもの | 保健衛生上の支障を生じさせないこと | 売上・粗利・人件費など(会社によって異なる) |
| 忙しくなったとき | 義務は減らない | 会社が配分を変えられる |
……これ、並べて見ると印象がまったく違いますね。上下だと思っていると、「上の役割を優先しなきゃ」って考えてしまいそうです。
そこじゃ。上下だと思っとるうちは、売上の数字が来たらそちらを先にやってしまう。じゃが出どころが違うとわかれば、話が変わる。片方は法律が課したもので量が動かん。もう片方は会社が決めたもので、会社が配分を変えられる。
きつさの正体は、業務量ではなく同じ時間の奪い合い
冒頭のお便りにあった「鑑査の途中で呼ばれる」「調剤も店も、どっちも中途半端」という感覚は、まさにここから来ておる。
鑑査の途中で中断するのって、いちばん怖いところですよね。病院でも、手を止めて戻ったときが危ないと教わりました。
そこはどの現場も同じじゃ。わしが薬局で管理薬剤師をしとった頃も、電話や来客で手が止まるたび、戻ってから「どこまで見たか」を思い出すところからやり直しじゃった。あれが一番こたえる。
呼ばれている数十秒より、戻ってからのほうが長いんですね……。
そういうことじゃ。危ないと知っとるから、レジに呼ばれた瞬間に嫌な感じがする。じゃが売場のレジは、店長としては放置できん。どちらも自分の責任じゃから、どちらを選んでも自分が削れる。
つまり、時間の取り合いなんですね。だとしたら、効率化しても解けない……。
解けんのじゃ。動かせるのは、配分そのものだけじゃ。
法律が決めているのは、どこまでか
ここまで聞くと、八方ふさがりに見えるかもしれん。兼務は違法ではない、義務は減らない。では何も動かせんのか——と。
正直、そう思いました……。どちらも自分の責任なら、どうしようもないような気がして。
そこで一つ聞くがの。相談者さんの一日の仕事のうち、薬機法が名指しで決めておるのはどこまでじゃと思う?
名指し……。あっ、調剤や鑑査、それに管理者としての仕事ですか?
薬局の管理者は、薬剤師でなければならない
そのとおりじゃ。薬機法の第7条第2項は、薬局開設者が薬剤師でないときは、その薬局で薬事に関する実務に従事する薬剤師のうちから管理者を指定して、実地に管理させなければならん、と定めておる。
薬剤師のうちから指定する、と条文に書いてあるんですね。誰でもいいわけじゃない。
資格で縛られておる役割じゃ。代われる人が、そもそも限られておる。
「店長」という肩書きに、薬機法上の資格要件はない
ところがな。「店長」という社内の役職名それ自体には、薬機法上の資格要件はない。条文に「店長」という言葉は出てこんのじゃ。
条文に無い……。会社が置いている役割、ということですね。
そうじゃ。発注も、シフト作成も、棚替えも、パートの勤怠処理も、薬剤師免許がなければできん仕事ではない。登録販売者が店長を務めておる店も、珍しくはない。
じゃあ、店長の仕事は全部、会社が自由に動かせるということですか?
いや、そこには例外がある。ドラッグストアの売場は、市販薬を売るために「店舗販売業」という別の許可を受けておる場合がある。そこにも薬機法上の管理者——店舗管理者が置かれるんじゃ。薬機法第28条でな。薬剤師か登録販売者でなければ務まらん役割で、第29条には従業者の監督や医薬品の管理といった義務も書かれておる。
……売場のほうにも、法律で決まった管理者がいるんですね。それは知りませんでした。
ここで気になるのは、その2つを1人で務めてよいのか、というところじゃろう。さきほど出てきた「兼務許可」の話とつながってくる。
薬局の管理薬剤師と、売場の店舗管理者。同じ人が両方を務めていることもあるんですか?
ありうる。同一の構造設備で薬局と店舗販売業の許可を重ねて取っておる場合の管理者の兼務について、知事の許可は要らんと明示しておる自治体もあってな。福島県の取扱要領がそうじゃ。ただし取扱要領は県ごとに違うでな。自分の勤め先の県ではどうなっておるかは、そちらを見ないとわからん。
そうなると、店側の仕事も全部が会社の裁量というわけではないんですね。
そこじゃ。じゃからこの記事で「渡せる」と言うておるのは、発注・シフト作成・棚替え・勤怠処理といった、会社が店長に割り振った店の仕事のほうじゃ。店舗管理者としての法定の仕事は、そこには入らん。

……それでも、かなり大きい話じゃないですか? 自分がやっている店の仕事のうち、けっこうな部分は薬剤師免許が要らないものだったということですよね。
そうなんじゃ。だとすれば、「両方あなたがやるしかない」は正しくない。渡せる可能性があるのは、会社が割り振った店の仕事の側なんじゃ。
明日からできる2つのステップ
渡す側がわかったら、次は渡し方じゃ。やることは2つだけでな。
うむ。ただ、その前にひとつ確かめてほしいことがある。鑑査の中断が当たり前になっていて、安全な調剤や薬局の管理にもう支障が出ておる、あるいは出そうだと感じるなら、1週間待つ必要はない。まず上司や薬局開設者へ状況を伝えてくれ。
そうじゃ。薬機法第8条第2項は、薬局の管理者に「保健衛生上支障を生ずるおそれがないように」薬局開設者に対し「必要な意見を書面により述べなければならない」と定めておる。意見を述べるのは、管理者の義務として条文に書かれておることじゃ。これから話す1週間の記録は、そこまで急がん場合に、普段の配分を見直す材料として使うものじゃよ。
安全の話と、普段の配分の見直しは分けて考える……。分かりました。

ステップ1:1週間だけ、時間を2色に分けて記録する
まずは1週間、会社の勤怠記録とは別に、自分の手元にメモを残すことじゃ。スマホのメモで足りる。
何を書けばいいんでしょう? 全部書き出すとなると、それだけで大変そうです。
難しく考えんでよい。その日やったことを「薬剤師としての仕事」と「店の仕事」の2つに分けて、時間だけ添える。鑑査45分、投薬2時間、発注40分、シフト作成1時間半、本部提出物30分——この程度の粒度で構わん。
それなら閉店後の5分でも書けそうですね。あ、患者さんのことは書かないほうがいいですよね。
よい確認じゃ。患者さんの氏名や処方の内容は書かんこと。記録するのは作業の名前と時間だけでよい。それで配分はわかる。
細かく書き出さなくていいんですね。……それが1週間分たまると、何が見えてくるんですか?
「全部きつい」が「配分」に翻訳される。ここが大事でな。「全部きつい」は交渉にならんが、「店の仕事に週◯時間使っていて、その分、鑑査と在庫の確認が後ろに溜まっています」は交渉になるんじゃ。
……たしかに。同じことを言っているのに、後者は相手が動かせる形になっていますね。
ステップ2:店長業務を1つだけ、名指しで渡す交渉をする
そこで2つ目じゃ。店長業務を、1つだけ名指しで渡す交渉をする。
1つだけ、ですか。全部返上したい気持ちのほうが強そうですけど……。
一度に全部を外す交渉より、1つに絞ったほうが相談しやすい。候補はこのあたりじゃ。
- 発注
- シフト作成
- 棚替え・売場変更
- パートの勤怠処理
- パート面接の一次対応
……並べてみると、どれも薬剤師免許が要らない仕事ですね。
そこが交渉の根拠になる。渡す相手は、副店長やチーフ、登録販売者の方でかまわん。言い方は、対立ではなく設計の相談として持っていくのがよい。
🗣️
上司への切り出し方鑑査の時間が確保できていません。発注を◯◯さんに移せませんか。
手を抜きたいという話ではなく、店の安全のための配分の話になるんですね。1週間の記録があれば、「発注に週3時間半使っています」と数字で言えますし、そこだけ動かせないかという相談にできそうです。
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同じドラッグストアでも、運用は会社によって割れている
さて、社内で配分が動かんこともある。「店長も管理薬剤師も両方やるのがうちのやり方だ」で終わることは、現実にあってな。
そう言われてしまったら、もう手がないように感じます……。
それは会社の設計思想であって、相談者さんが変えられるものではない。じゃがそのときに知っておいてほしいのは、「ドラッグストアだからきつい」のではなく、同じ業態の中で設計が分かれておるということじゃ。
たとえばツルハグループは、薬剤師のキャリア採用ページで「ドラッグストアの運営と薬局業務を完全分業化しています。調剤薬剤師はドラッグストアでの日用雑貨等レジ打ち・品出し業務は行いません」と明記しておる。一方で、薬剤師が調剤とOTC医薬品の販売の両方に携わることを前提にしとるチェーンもある。
同じドラッグストアという看板でも、中の設計はぜんぜん同じじゃないんですね。調剤併設のドラッグストアで働いている友人が「うちは調剤に入ったら売場には出ない」と言っていて、そんな会社もあるのかと思っていました。
そういう会社はある。ただ、ここは正直に言うておくぞ。「レジ・品出しをしない」ことと「管理薬剤師が店長を兼ねない」ことは、別の話じゃ。
あっ……分業を公表していても、兼務があるかどうかまではわからない、ということですか。
公開情報からはわからん。求人票にも、まず書かれておらん。じゃからこの条件は、聞かんと確かめられんのじゃ。面接や転職エージェント経由で、こういうことを確認するとよい。
どれも求人票では絶対にわからないことですね。逆に言えば、聞けばわかることでもある……。
よう言うた。もうひとつ添えておくとな、業態ごと変える必要はない。ドラッグストアを離れんでも、設計の違う会社はある。じゃからこそ、いまの5つを聞いて確かめる値打ちがあるんじゃ。
「辞めたら全部リセット」ではないんですね。それなら、少し気が楽になります。
それにな、記録を取って社内で配分を交渉した経験は、面接でそのまま話せる。「何に困って、何を試して、それでも動かなかったから探しています」と言える人は、転職理由が具体的で強いんじゃ。
いきなり応募する必要はありません。まずは、求人票のどこを見て、何を聞けばいいのかを知るところから始めてみてください。
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まとめ:設計の問題なら、設計ごと選び直していい
この記事の要点
- 1兼務がきついのは要領ではなく、2つの職責が同じ時間を取り合っているから
- 2薬局の管理者の義務は薬機法で決まっていて、店が忙しくても減らない
- 3渡す余地があるのは、発注やシフト作成など会社が割り振った店の仕事
- 4安全に支障が出ているなら記録より先に報告。急がないなら1週間記録して1つ渡す
兼務がきついのは、相談者さんが両方できておらんからではない。同時に成立せん2つを、同じ時間帯に乗せられておるからじゃ。
「どっちも中途半端」って、本当は「どっちも成立しない設計だった」ということなんですね……。ずっと自分を責めていた人ほど、そこが反転すると思います。
まずは1週間、時間を2色に分けてメモしてみるとよい。それだけで、自分が何と何に引き裂かれておったのかが見える。そのうえで、渡せるものを1つ渡す。
それでも動かなかったら、設計の違う職場を選び直していい。逃げじゃなくて、選び直しですね。
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