50代薬剤師が転職すると年収はいくら下がるのか。実は薬剤師の平均下落額を示した公的統計はありません。厚生労働省の雇用動向調査(全産業)で賃金の増減を確認したうえで、給与明細から自分が転職で失う額を見積もる手順を解説します。
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読者からの相談調剤薬局で働く53歳の薬剤師です。管理薬剤師を10年ほど務めていますが、定年まであと7年をこのまま同じ職場で走り切るのがいいのか、迷いが出てきました。求人は見ているものの、転職について調べると「50代の転職は年収が大きく下がる」とばかり書かれていて、実際にいくら下がるのかが分からず、結局その日は何も決められずに閉じてしまいます。今の年収から、どれくらい下がる覚悟をしておけばいいのでしょうか。
📌この記事のポイント
- 50代薬剤師の年収が平均いくら下がるかを示した統計はないが、下げ幅は計算できる
- 全産業の統計では、50〜54歳は賃金が減った人より増えた人のほうが多い
- 計算できるのは「転職で失う額」まで。提示される額は相場と照らして確かめる
まず結論:平均いくら下がるかの統計はない。だから自分の「失う額」から見積もる
求人を開いて、年収の欄を見て、そのまま閉じる。この相談者さんは、それを何度も繰り返しておるようじゃな。
「何も決められずに閉じてしまう」という一文が切実ですね…。下がるとは書いてあるのに、いくら下がるかはどこにも書いていないから、決めようがないんだと思います。
そこじゃ。だから先に、いちばん大事なことを言うておく。50代の薬剤師が転職して平均いくら下がるのか、それを示した公的な統計は存在せん。
えっ、ないんですか。あれだけ「50代は下がる」と書かれているのに…。
ない。あるのは、転職した人の賃金が増えたか減ったかという割合までじゃ。全産業の統計になるが、50〜54歳は増えた人のほうが多い。
「いくら下がるか」の答えは、どこを探してもない…。ではどうすればいいんでしょう。
自分で見積もるんじゃ。今の年収のうち、転職したら失う部分がどれだけあるか。そこは給与明細と賞与明細で計算できる。
「50代だからいくら下がるか」ではなくて、「今の年収のうち何を失うのか」…。問いの立て方を変えるんですね。
そういうことじゃ。この記事では、そこまでやってしまおう。
全産業の統計では、賃金の減少が増加を上回るのは55〜59歳から
まず、その「増えたか減ったか」の統計を見ておこう。厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」じゃ。1年間に転職した人の賃金が、前の職場と比べてどう変わったかを調べておる。
転職した人の賃金の変化(令和6年雇用動向調査・全産業・年齢階級別)
| 年齢階級 | 増加 | 変わらない | 減少 | うち1割以上の減少 |
|---|
| 45〜49歳 | 46.4% | 26.9% | 23.8% | 16.5% |
| 50〜54歳 | 39.0% | 31.7% | 28.2% | 21.0% |
| 55〜59歳 | 27.4% | 33.6% | 36.6% | 30.7% |
| 60〜64歳 | 13.6% | 24.2% | 60.9% | 53.9% |
こうして並ぶと、「50代」とひとくくりにするのがかなり乱暴だと分かりますね。
ただ、この表を読む前に断っておくことが4つある。1つ目、これは全産業が対象で、薬剤師だけを取り出した数字ではない。
言えん。2つ目がさらに大事でな。この調査が見ておるのは「賃金」の増減であって、年収そのものの増減を示した統計ではない。
賃金と年収は、別のものとして扱ったほうがいいということですか。
そうじゃ。この割合を「年収が何%動いた」と読み替えてはいかん。3つ目、対象は前の職場で雇われていた人のうち、調査時点で在籍していた人じゃ。自営業からの転職は入っておらん。
前の職場と就業形態が変わった人も入っておることじゃ。正社員からパートになった人も、この数字の中におる。
それも含めたうえで、50代前半は増えた人のほうが多いんですね。そこは意外でした。
50〜54歳は、賃金が増えた人が39.0%・減った人が28.2%
50〜54歳を見てみよう。増加39.0%、変わらない31.7%、減少28.2%。増加が減少を10.8ポイント上回っておる。
ひとつ上の45〜49歳と比べると、どうなんですか?
45〜49歳は増加46.4%・減少23.8%で、差は22.6ポイントじゃ。50代前半は差が縮んではおるが、向きは同じじゃな。
つまり50代前半は、まだ40代の延長線上にあるということですか。
その理解でよい。ここで急に崖が来るわけではないんじゃ。
減少が増加を上回るのは55〜59歳から
向きが変わるのは55〜59歳じゃ。増加27.4%に対して減少36.6%と、ここで初めて減少が上回る。
差がマイナス9.2ポイント…。50代前半とは逆になるんですね。
そして60〜64歳になると、減少が60.9%を占める。しかも「1割以上の減少」だけで53.9%じゃ。
半分以上の人が、1割以上下がっている…。同じ「50代・60代」でも、まったく違いますね。
じゃから「50代の転職は年収が下がる」という一文は、この段差を消してしまっておる。50代という括りでは説明できんのじゃ。
相談者さんは53歳ですから、まだ前半側ですね。ただ、すでに55歳を過ぎている方は、もう遅いということになるんでしょうか。
そうとは限らん。これは年齢ごとの傾向であって、一人ひとりの結果ではないからの。むしろ55歳を過ぎておるなら、失う額を先に見積もっておく意味が大きくなる。
ただし1割以上下がった人も、50代前半で5人に1人いる
とはいえ「50代前半なら下がらん」と読むのも違う。50〜54歳でも、賃金が1割以上下がった人は21.0%おる。
21.0%というと…およそ5人に1人ですか。決して小さい数ではないですね。
そうじゃ。実態に近いのは、増える(39.0%)、変わらない(31.7%)、下がる(28.2%)の3つに分かれるという捉え方じゃな。下がった人のうち、1割以上下がったのが21.0%というわけじゃ。
では、この分かれ目は何で決まるんでしょう。同じ50代前半なのに、増える人と1割以上下がる人がいるわけですよね。
よい問いじゃ。年齢ではない。次でそこを見ていこう。
下げ幅を決めているのは年齢ではなく「転職すると失う部分」
両者を分けておるのは、今もらっている年収の中身じゃ。今の年収には、その職場におるからこそ乗っておる部分がある。
その部分は、転職先には引き継がれないということですか。
引き継がれん。まずはどんなものがあるか、見ていこう。
管理薬剤師と一般の薬剤師では、平均年収に約246万円の差がある
いちばん大きいのが役職じゃ。厚生労働省の「第25回医療経済実態調査」を見てみよう。令和7年に実施された調査じゃ。
薬局で働く薬剤師の給与が、役職別に出ているんですね。
保険薬局(法人)の令和6年度の平均給料計は、管理薬剤師が726万1,788円、役職のない薬剤師が480万2,997円。差は約246万円になる。
246万円…。役職があるかないかで、それだけ水準が離れるんですか。
ただし、この246万円を「役職手当の額」と読んではいかん。これは別々の集団どうしの平均の差で、年齢も経験年数も基本給も賞与も全部入っておる。同じ人が役職に就く前と後を比べた数字ではないんじゃ。
では「役職を外れると246万円下がる」とは言えないんですね。
言えん。ここで分かるのは「役職の有無で水準がこれだけ離れておる」ということまでじゃ。自分の役職手当が実際いくらかは、あとで給与明細から出す。
統計で分かるところと、自分で計算するところが分かれているんですね。
賞与の月数と勤続に紐づく手当は、そのまま乗るわけではない
役職以外にも、持っていけない部分がある。ひとつは賞与の月数じゃ。
月給が同じでも、賞与が違えば年収は変わりますもんね。
賞与が年4か月分の職場と年2か月分の職場では、年収が基本給2か月分ちがう。求人票の「年収例」を今の月給と並べても、賞与の前提が違えば比較にならんのじゃ。
長く在籍したことで乗っておる手当じゃ。勤続年数に応じて増える手当は、転職先ではゼロから積み直しになる。
月給の額だけを見ていると、どちらも見落としそうです。
わしが調剤薬局におった頃、月給の額だけで決めて移った同僚が、最初の賞与の時期になって顔色を変えたことがある。入ってから気づくのが、いちばんこたえるんじゃ。
実際に起きるんですね…。数字を並べる前に知っておきたかった話です。
年収よりも先に体力のほうが限界に近い、という場合は、職場の選び方そのものが変わります。負担を左右する条件については、こちらで解説しています。
あわせて読みたい50代薬剤師「体力が限界」で辞める前に|負担の軽い職場の見分け方
身体的な負担を左右する職場の条件と、求人票・見学・面接でどこを確認するかを解説
さて、失う可能性がある部分は見えてきた。次はそれを自分の数字に落とす。
自分が「失う額」を計算する

必要なのは、直近1年分の給与明細と賞与明細だけじゃ。求人票も、面接での質問も、まだ要らん。
給与明細を基本給・役職手当・その他手当に分ける
まず直近1年分の給与明細を並べて、支給欄を3つに仕分ける。基本給、役職手当、その他手当じゃ。
その他手当というのは、住宅手当や家族手当、資格手当のことですか。
そうじゃ。そのとき、転職先にも同じ制度があるとは限らんものに印をつけておく。 住宅手当や家族手当は、会社によって有無がまるで違うからの。
全部が失われるわけではないけれど、当てにはできない、ということですね。
賞与明細から年間の支給額と月数を出す
次に賞与明細から、年間の支給額を出す。そのうえで、基本給の何か月分にあたるかも計算しておくとよい。
求人票には「賞与年◯か月」と書いてあることが多いからじゃ。月数で持っておけば、同じ土俵に乗せられる。
なるほど…!求人票の書き方に合わせておくんですね。
3つのケースで、失う額を計算してみる
では、実際に計算してみよう。よくある3つのケースじゃ。
転職で失う額の試算(いずれも手元の数字を掛け算しただけの計算例)
| ケース | 前提 | 1年で失う額 |
|---|
| 役職手当が外れる | 役職手当が月5万円 | 60万円 |
| 賞与の月数が下がる | 年4か月分→年2か月分/基本給35万円 | 70万円 |
| 勤続に紐づく手当が消える | 手当が月1万円 | 12万円 |
役職手当が月5万円なら、年60万円…。こうして数字にすると、急に現実味が出ますね。
冒頭の相談者さんは管理薬剤師を10年務めておられる。1つ目と3つ目が同時に効く形じゃな。重なれば合算になる。
見積もっておかないと、あとで驚くことになりますね。
ただし、これは失う側だけの計算であることを忘れてはいかん。転職先の基本給が今より高いことも、賞与の月数が多いこともある。引き算だけの話ではないんじゃ。
そこで大事なことを言うておく。給与明細で出せるのは、ここまでじゃ。
次の職場で実際いくら提示されるかは、地域、業態、企業規模、求人の需給、経験がどう評価されるか。そういうもので決まる。今の年収から引き算して出るものではないんじゃ。
「今の年収が高いと、そもそも採用されないのでは」と心配する方もいると思うんですが…。
それも同じ理由で、一律には決まらん。薬剤師が集まりやすい地域では条件のよい職場に応募が集まるし、人が集まりにくい地域では採用のために給与を上げることもある。今の年収が高いこと自体が、不利とも有利とも言い切れんのじゃ。
だから提示される額のほうは、相場と照らして確かめるしかないんですね。
そういうことじゃ。失う額は自分で、提示される額は相場で。この2つがそろって、はじめて下げ幅が見える。
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まとめ:下げ幅は年齢ではなく、転職で失う部分で決まる
この記事のまとめ
- 150代薬剤師の年収が平均いくら下がるかを示した公的統計はない
- 2全産業の統計では、50〜54歳は賃金が増えた人のほうが多い
- 3下げ幅を決めるのは年齢ではなく、転職で失う役職手当・賞与・勤続分
- 4給与明細で出せるのは失う額まで。提示額は相場と照らして判断する
「50代だから下がる」と考えておるうちは、打つ手がない。年齢は変えられんからの。
でも「転職で失う部分」なら、給与明細を開けば自分で数えられますもんね。
そうじゃ。覚悟の量を決めるために求人を眺めるのではなく、先に失う額を出してから求人を見る。順番を入れ替えるだけでよい。
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