調剤過誤で薬剤師を辞めたいと思っても、今日決める必要はありません。患者さんの安全の初期対応、健康被害の有無、免許・賠償の範囲の順に確かめ、続けるかは職場の事後対応で判断します。転職時の面接での伝え方も紹介。
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読者からの相談調剤薬局で働く2年目です。先週、鑑査で他院の薬との併用禁忌を見落としたまま交付してしまい、翌日の薬歴確認で気づきました。初めて起こした調剤過誤です。患者さんに健康被害は今のところないと聞いていますが、それから出勤前に手が震え、薬剤師を続けていいのか、辞めて償うべきなのか分からなくなっています。
📌この記事のポイント
- 薬剤師が過誤で辞めたいと思っても、今日決めなくていい。確かめてから決めても遅くない
- 患者さんの安全の確認が済んだら、健康被害「なし・不明・あり」を確かめる。関係しそうな責任の見当がつく
- 続けるか辞めるかは、職場が過誤のあとに取った対応で決める
まず結論:過誤で辞めるかは、健康被害の有無と職場の対応を確かめてから決めればいい
辞めるかどうかは、今日決めなくていい。過誤のあとには、確かめる順番があるんじゃ。健康被害が出たかどうか、それで見当がつく責任の範囲、そして職場が過誤のあとに何をしたか。この3つを確かめてから決めても遅くはない。
相談者さん、出勤前に手が震えるって書かれていますよね…。順番を知る前に、まず今の状態が心配です。
わしもそこが先じゃと思う。眠れない、食べられない、消えてしまいたい、死んで償うしかないと考えてしまう。そういう状態なら、この先を読む前に一度、誰かに話してほしい。夜中でもつながる窓口があるぞ。
今の気持ちを話せる電話窓口(厚生労働省のサイトで案内されているもの)
| 窓口 | 電話番号 | 受付時間 |
|---|
| 働く人の「こころの耳電話相談」 | 0120-565-455 | 平日17:00〜22:00(受付は21:50まで)、土日10:00〜16:00(受付は15:50まで)。祝日・振替休日・12月29日〜1月3日を除く |
| #いのちSOS | 0120-061-338 | 毎日24時間 |
24時間の窓口もあるんですね。答えを探す前に、話すだけでもいいんだと思えると少しほっとします。
そうじゃ。話せる状態なら、ここから確かめる順番を見ていこう。健康被害がまだ分からない人は、まずそこを確かめるところからじゃ。
自分の過誤はどれに当たるか:健康被害の「なし・不明・あり」を確かめると、関係しそうな責任の見当がつく
最初は、患者さんの安全のための初期対応が済んでいるかを、管理薬剤師に確かめることじゃ。日本薬剤師会のマニュアルでは、薬を使ったのか、使ったなら何をどのくらい・いつから使ったのか、今何が起きているのかを確かめ、患者さんがどう行動すればよいかを速やかに示す。処方医への連絡はそのあとじゃ。
相談者さんのケースなら、患者さんがもう飲んだのか、今の体調はどうか、ですね。責任の話はその後なんですね。
そうじゃ。済んでいなければ、それが先じゃ。済んでいるなら、次に自分の件がどれに当たるかを確かめる。過誤の責任の範囲は、健康被害が出たかどうかで大きく変わる。
健康被害が「なし・不明・あり」のどれかを、管理薬剤師に確かめる
日本薬剤師会のマニュアル(平成26年)では、調剤事故とは調剤に関連して患者に健康被害が出たものを言う。そのうち薬剤師の過失によるものが調剤過誤じゃ。
じゃあ、健康被害が出なかったら「過誤」とは呼ばないんですか?
マニュアルの定義では、薬を渡した後でも健康被害が出なければインシデント(ヒヤリ・ハット)じゃ。ただ、この記事では患者さんに渡ってしまった間違いを、健康被害の有無にかかわらず「過誤」と呼ぶことにする。
言葉は同じでも、健康被害があったかどうかで中身が分かれるんですね。そこを確かめるのが次の一歩ということですか。
その通りじゃ。「なし・不明・あり」の3つに分けて、次に何をするかを表にしておこう。
健康被害の3つの状態と、次に確かめること
| 健康被害 | 次に確かめること | 相談先 |
|---|
| なし | 次の見出しの条文で、関係しそうな責任を確かめる | 管理薬剤師 |
| 不明 | 服用したかと今の体調の確認、処方医への連絡が済んでいるか | 管理薬剤師 |
| あり | 軽いものでも、どの責任に当たるかは自分で判断しない。処方医・患者さんへの対応が済んでいるかを管理薬剤師に確かめ、自分の立場は専門家に相談する | 管理薬剤師・所属の薬剤師会・弁護士 |
冒頭の相談者さんは「今のところない」と書かれていました。これは「なし」でいいんでしょうか。
よいところに気づいた。「今のところない」は、まだ「不明」の段階かもしれん。管理薬剤師に、患者さんが飲んだかどうかと今の体調の確認、処方医への連絡まで済んでいるかを聞いてみるとよい。
もし健康被害が出ていたら…と考えると、それだけで怖くなってしまいそうです。
そのときでも、相談できる先はある。同じマニュアルには、薬剤師会は報告先であると同時に、専門職能団体として情報提供や支援ができると書かれておる。一人で抱えず、薬剤師会や弁護士を頼ってほしい。
報告する先が、支えてくれる先でもあるんですね。一人で抱えなくていいと分かるだけで違います。
それに、薬が患者さんに渡ってしまうこと自体は、自分だけに起きることではない。日本医療機能評価機構の2024年年報では、薬局から報告された調剤に関する事例19,304件のうち、患者に渡した後に見つかった事例が10,127件あった。
渡った後に見つかったものだけで1万件を超えているんですね…。
見つけたのが患者本人だった事例も3,005件ある。任意の報告で、重大な健康被害の事例はこの事業の対象に含まれん数字じゃが、渡ってしまうのが自分だけではないことは分かる。
相談者さんが「自分だけがやってしまった」と思い込まなくていい根拠になりますね。
そうじゃ。ただ、1件ではなく何度も続いていて落ち込んでいる人は、続けるかを考える前に、ミスが起きる状況を見つけて減らすほうが先じゃ。こちらを読んでみてほしい。
あわせて読みたい薬剤師でミスが多くて落ち込む方へ|自分を責める前に確認したい原因と減らし方
1件ではなくミスが続いて落ち込んでいるときに、ミスが起きる状況を記録して、自分の裁量で減らす方法をまとめています。
免許・賠償・保険・給料はどうなるのか:条文で確かめる
相談者さんがいちばん怖いのは、免許や賠償のことだと思います。「薬剤師を続けていいのか」の裏には、それがありそうで。
免許の処分・刑事・賠償のどれにも、条文に要件がある。e-Govで刑法211条を見ると、業務上過失致死傷罪は業務上必要な注意を怠って人を死傷させたことが要件じゃ。健康被害が無い件で、この要件を満たすことはない。
罪名がはっきりすると、「刑事事件になるかも」という漠然とした怖さとは別物だと分かりますね。
ほかの責任も、4つに分けて表にしておこう。どれも「条文の要件」と「確かめ先」だけを書いておる。
過誤に関係しうる責任と、条文の要件
| 責任 | 条文の要件 | 確かめ先 |
|---|
| 業務上過失致死傷罪(刑法211条) | 業務上必要な注意を怠り、人を死傷させたこと | 弁護士 |
| 免許の行政処分(薬剤師法8条) | 罰金以上の刑などに当たるか、薬剤師としての品位を損するような行為があったか。処分は戒告・3年以内の業務停止・免許取消の3段階 | 薬剤師会・弁護士 |
| 民事の賠償(民法709条・715条) | 過失によって損害が生じたこと。薬局開設者も通常、使用者責任や調剤契約上の責任を負うことがある | 薬剤師会・弁護士 |
| 給料・雇用(労働基準法16条・24条、労働契約法16条) | 給料からの一方的な天引きは制限される。賠償額をあらかじめ決める契約は禁止。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要 | 総合労働相談コーナー |
健康被害がある場合は、この表のどれに当たるかを自分で決めず、薬剤師会や弁護士に確かめてほしい。
免許の処分にも段階があるんですね。どうやって決まるのかが、いちばん気になりそうです。
厚生労働省の「薬剤師の行政処分に関する考え方」では、司法処分の量刑等を参考に決めるのが基本とされておる。
参考にするものが決まっていると、少し見通しが立ちます。
ただし、明らかな過失や繰り返された過失は重めの処分とされ、職場の管理・業務の体制なども考慮される。
職場の体制まで見られるんですね。個人だけの問題として扱われるわけではないと分かって、少し見え方が変わります。
賠償は、薬局から本人への請求に限りがある。日本薬剤師会の「医療安全にかかる法的知識の基礎(第2.1版)」は、薬局開設者から薬剤師への請求は、判例によって信義則上相当と認められる限度に減額されると整理しておる。
賠償も条文どおりなら怖いところでしたけど、限りがあると分かると少しほっとします。
同じ資料には、保険で支払われる場合は、実際に問題になることは少ないとも書いてあるぞ。
保険があるかどうかで、心配の大きさも変わりそうですね。
日本薬剤師会の薬剤師賠償責任保険は、日薬の正会員なら入れる(2026年加入版)。今回の件がどう扱われるかは、勤務先の薬局の保険や、加入している保険の約款・窓口で確かめるとよい。
相談者さんの件にどう当てはまるかは、表だけでは判断しきれなさそうです。
それでよいのじゃ。わしは法律家ではないから、当てはめは薬剤師会か弁護士に聞いてほしい。解雇や給料の問題なら、総合労働相談コーナーが予約不要・無料で相談に乗ってくれる。
続けるか辞めるかは、職場が過誤のあと何をしたかで決める

続けるか辞めるかは、自分を責める気持ちの強さではなく、職場が過誤のあとに取った対応で決める。見るのは、振り返りがあったか、仕組みで再発防止策が出たか、当事者への配慮があったか、の3つじゃ。
相談者さんのように自分を責めていると、ミスをしたのは自分なのに職場を見ていいのか、迷いそうです。
日本薬剤師会のマニュアルは、過誤のあとの対応として、患者さんへの説明、処方医への報告、薬剤師会への報告、再発防止、当事者への配慮を示しておる。職場で求められているのは、この一つひとつじゃ。
相談者さんが考えている「辞めて償う」より先に、職場でやることが決まっているんですね。
ただ、手の震えや眠れない状態が続くなら、職場の対応より先に自分の体を大事にしてほしい。医療機関や職場の産業医に相談したり、少し休んだりするのも「続ける」のうちに入る。
休むのも続けるうち、と聞くと少し肩の力が抜けます。つらいときは、冒頭の窓口に話してもいいんですよね。
もちろんじゃ。そのうえで職場の対応を見ていこう。日本薬剤師会のマニュアルは、感情的な叱責は事実を正直に申告しにくい雰囲気をつくるので望ましくないとしておる。
当事者を責めて終わりにしないことが、再発防止の側から求められているんですね。
それに、薬局の体制を定める省令でも、従事者から開設者へ事故を報告する体制の整備が、開設者の講じるべき措置として定められておる。
報告を受け止める仕組みまで、職場の側に求められているんですね。
配慮については、マニュアルが勤務時間の調整や休暇・休職などを特に求めているのは、重大な結果になった場合じゃ。ただ、健康被害が無くても当事者が参っているなら、職場が気にかけてくれるかは見ておきたい。3つを確かめてみよう。
!職場が過誤のあと何をしたか
叱責だけで終わらず、何が起きたかを一緒に振り返る場があった
再発防止策が、個人の注意ではなく、手順・機器・人の配置の変更として出た
当事者の様子を気にかけ、声をかけたり業務や勤務を調整したりした
まずは相談者さんの職場で、3つのうちいくつ当てはまるかですね。結果によって、次にやることも変わりそうです。
当てはまる数ごとの目安を示しておこう。厳密な判定ではないぞ。3つとも当てはまるなら、続けながら(必要なら休みを取りながら)、変わった手順を自分でも1つ確かめる。例えば、新しく決まった鑑査の順番をメモに書き写すくらいでよい。
職場が動いてくれているなら、辞めるかは落ち着いてから考え直せばいいんですね。
1つか2つなら、足りないものを管理薬剤師に1つだけ聞いて、その答えで決める。例えば振り返りはあったのに再発防止策が「気をつける」だけなら、「手順は変わりますか」と聞くんじゃ。
全部そろっていなくても、すぐに見限らなくていいんですね。
反対に、1つも当てはまらない、叱責だけで終わった、という職場なら、職場を変える理由になる。面接での伝え方の準備を始めてよい。
まだ振り返りがこれから、という段階の職場もありそうですね。
その場合は、再発防止策が出るまでは決めんことじゃ。相談者さんなら、まず管理薬剤師に「振り返りの場はありますか」と聞くところからじゃな。
職場より、患者さんから強く責められたことのほうが頭から離れない、という人もいるかもしれません。
その記憶がつらいなら、先にこちらで自分を守る方法を見ておくとよい。
あわせて読みたい薬剤師が患者のクレームでトラウマになったら|自分を守るためにできること
患者さんから強く責められた場面が頭から離れないときに、自分を守るためにできることと、職場で確かめたいことをまとめています。
転職するなら、過誤のことを面接でこう伝える
職場を変えると決めた人に、準備しておいてほしいことが2つある。面接での伝え方と、次の職場に聞く1〜2問じゃ。過誤は隠す必要も、長く語る必要もない。
面接で過誤を伝えるときは「事実・対策・次に大事にしたいこと」の順で話す
事実を短く、その後に取った対策、次の職場で大事にしたいことの順で伝える。この順番なら、反省と今後の姿勢が伝わりやすい。
相談者さんのように落ち込んでいるときに面接で聞かれたら、頭が真っ白になりそうですよね。例があると心強いです。
確かめた結果、健康への影響が無かったと分かったあとの面接なら、冒頭の相談者さんのケースはこう伝えられる。
🗣️
面接で過誤を伝える例(相談者さんのケース)前の職場で、他院の薬との併用禁忌を見落として交付したことがあります。翌日に気づいてすぐ報告し、患者さんの服用状況と体調を確かめたうえで処方医に連絡し、健康への影響が無かったことを確認しました。その後、お薬手帳と薬歴の併用薬を確かめる手順を自分に課しています。確認の手順が仕組みとして決まっている職場で働きたいと考えています。
事実が2文で終わっていて、あとは今と次の話なんですね。前の職場を悪く言っていないのもいいなと思いました。
そこは大事じゃ。前の職場の体制を主語にして悪く言うのは避ける。面接で前の職場のことを聞かれたら、偽らずこの順番で答えればよい。
次の職場には「過誤が起きたとき、当事者の薬剤師にどう対応しているか」を聞く
- 調剤過誤が起きたとき、当事者の薬剤師にはどう対応していますか(振り返りの場・面談・業務の一時調整があるか)
- 過誤のあと、再発防止策はどのように決めていますか
これ、今の職場を見た3つと同じ物差しですね。同じ目で次の職場も見られるんだ…。
そういうことじゃ。1人の時間帯やダブルチェックなど、体制そのものも確かめたい人は、こちらに面接や見学で聞く質問をまとめてある。
あわせて読みたい薬剤師だけどミスが怖い・向いてないと感じたら|恐怖の原因は「環境」かもしれない
1人になる時間帯やダブルチェックの体制など、次の職場の確認の仕組みを面接・見学で確かめる質問をまとめています。
面接で直接聞くのは勇気がいる、という人もいそうですね。
それなら、面接対策まで手伝ってくれる転職サイトの担当者に、こうした質問を確かめてもらう方法もある。下の診断では、サポートの希望で「求人紹介から面接対策まで手厚くサポートしてほしい」を選べる。約30秒じゃ。
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まとめ:辞めるかどうかは、確かめてから決めればいい
この記事のまとめ
- 1過誤を起こしても、辞めるかどうかは今日決めなくていい
- 2患者さんの安全の初期対応が済んだら、健康被害「なし・不明・あり」を確かめる。関係しそうな責任の見当がつく
- 3続けるかは、職場が過誤のあと何をしたかで決める
- 4転職するなら「事実・対策・次に大事にしたいこと」の順で伝える
自分を責める気持ちが強いときほど、辞めることで決着をつけたくなる。けれど、確かめる順番を踏めば、続けるか変えるかを自分で選べる。
相談者さんも、確かめる順番が分かれば、少し落ち着いて考えられそうですね。まずは管理薬剤師に1つ聞くところからなら、明日でもできそうです。
今つらいなら、こころの耳電話相談(0120-565-455)や、24時間つながる #いのちSOS(0120-061-338)に先に話してほしい。
話してからでも、確かめる順番は待ってくれますもんね。
話せる状態なら、ここから先は行動の話じゃ。まだ迷っている人も、診断で転職意欲を「今の職場に残るか迷っている」にして、選択肢を見ておくことから始められる。
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職場ではなく、薬剤師という仕事そのものを辞めたくなった方は、こちらも参考にしてください。
あわせて読みたい薬剤師を辞めたいけど資格がもったいない|続けるか辞めるか迷ったときの考え方
辞めたい気持ちが、職業そのものなのか今の環境なのかを切り分け、資格をどう扱うかを整理しています。