のんびり働きたい薬剤師へ。今の職場の「薬剤師1人あたり1日枚数」を忙しさの目安として測る方法、求人で確認する4点、年収が枚数だけでは決まらない理由を技術料の構造から説明し、必要な手取りから年収の下限を決める方法を解説します。
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読者からの相談 調剤薬局チェーンの総合病院門前で6年目、30歳の薬剤師です。薬剤師3人で1日120枚を超える日が普通で、昼休みは15分、薬歴を書き終えて薬局を出るのが19時半です。休みの日も疲れが抜けず、「のんびり働きたい」と検索するようになりました。ただ、奨学金の返済が月3万円あって、年収が下がるのが怖いです。それに、楽な職場に逃げたいと思っている自分が薬剤師として甘えている気がして、同僚にも言えません。面対応の薬局に移った先輩からは「暇すぎて手が鈍るし、給料も下がった」と聞きました。薬剤師がのんびり働ける職場は、どう選べばいいのでしょうか。
📌 この記事のポイント
のんびり働ける職場は、今の職場の「薬剤師1人あたり1日枚数」を目安に測ってから選ぶ 求人は枚数÷薬剤師数・在宅の件数・門前の診療科・管理薬剤師採用かの4点で絞る 年収は枚数だけでは決まらない。技術料の構造を知り、必要な手取りから年収の下限を先に決める 1 まず結論:のんびり働きたいなら、今の職場の「薬剤師1人あたり1日枚数」を忙しさの目安として測ってから職場を選ぶ。年収は枚数だけでは決まらないので、下げていい額を先に決める 2 今の職場の忙しさの目安を測る:月の処方箋受付回数を営業日数と常勤換算の薬剤師数で割って、全国の分布に当てる 3 求人を探すときの4つの確認:枚数÷薬剤師数・在宅の月の件数・門前の診療科と診療終了時刻・管理薬剤師採用か 4 のんびり職場では年収が下がる?処方箋1枚の技術料は2,594円だが、年収は枚数だけでは決まらない 5 下げていい年収の額を先に決める:額面は残業代・役職分を分け、手取りは必須支出から必要額を出して、求人の額面と比べる 6 のんびり職場の落とし穴と、「何年のんびりするか」の決め方 7 まとめ:今の職場の枚数を測り、4つの確認で求人を絞り、下げていい額を決めてから動く まず結論:のんびり働きたいなら、今の職場の「薬剤師1人あたり1日枚数」を忙しさの目安として測ってから職場を選ぶ。年収は枚数だけでは決まらないので、下げていい額を先に決める まず結論じゃ。のんびり働ける職場を選ぶ前に、今の職場の薬剤師1人あたり1日枚数 を、忙しさの目安として測る。厚生労働省の調査では、1人あたり16〜20枚の薬局がいちばん多く、30枚を超える薬局は全体の約17%じゃ。30枚超なら「枚数が多い側」の目安になる。求人は4つの条件で絞る。年収は枚数だけでは決まらんから、必要な手取りから下限を先に決めて、実際の求人で比べるんじゃ。なお、この記事は調剤薬局の中で、処方箋の負荷が少ない職場を選ぶ方法に絞って書く。
30枚超が全体の約17%…。相談者さんは薬剤師3人で120枚超だから、1人40枚超ですよね。全国で見ると、かなり上のほうなんですね。
そうじゃ。ただ、枚数だけで忙しさは決まらん。在宅、一包化、処方の複雑さ、時間帯の偏り、人員体制でも変わる。じゃから枚数は「目安」として使い、ほかの条件は求人の4つの確認で見る。枚数が全国の平均並みなのに消耗しているなら、原因は枚数以外にある。人員体制、残業の構造、疲れ果てた状態。それはこの記事では解けん。年収も同じで、枚数だけでは決まらない。そこは正直に言っておく。
分かりました。その前に、相談者さんの「楽な職場に逃げたい自分は甘えている気がする」に答えてあげたいです。同僚にも言えない、と書いてあるのが気になって…。
答えておこう。薬局の薬剤師の配置基準は「1日平均取扱処方箋数40枚につき薬剤師1人」じゃ。これは体制省令に書かれておる。じゃが、この40枚は上限であって、目標ではない 。全国の薬局の多くは、1人1日16〜25枚で回っておる。「のんびり働きたい」は、「業務量が全国の平均並みの職場で働きたい」と言い換えられる。甘えではないんじゃ。
「平均並みの職場で働きたい」なら、誰にでも言えますね。相談者さんの今の職場のほうが、全国の中では特別に忙しい側だった、ということですか。
そういうことじゃ。ひとつだけ先に。測る前に、消耗の中心が枚数以外だと分かっている人は、先に別の記事へ進んでほしい。薬剤師が自分だけの時間帯が長くて休憩が取れないのが中心なら、一人体制の休憩の記事が先じゃ。枚数は平均並みなのに薬歴で毎日残業しているなら、残業の構造の記事が先。疲れ果てて、のんびりしたいのか薬剤師を辞めたいのかも分からないなら、続けるか辞めるかを整理する記事が先じゃ。
薬剤師が自分だけの時間帯が長く、休憩が取れないのが消耗の中心なら、こちらが先です。
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枚数は平均並みなのに、薬歴で毎日残業しているなら、こちらが先です。
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疲れ果てて、のんびりしたいのか薬剤師を辞めたいのかも分からないなら、こちらが先です。
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今の職場の忙しさの目安を測る:月の処方箋受付回数を営業日数と常勤換算の薬剤師数で割って、全国の分布に当てる ここからは、今の職場を測るところから始める。求人を見る前にやるのは、測らないと「のんびり」の中身が決まらんからじゃ。求人票の「残業少なめ」を見ても、比べる基準がなければ判断できん。測り方と、全国の分布と、40枚の重さ。この3つを順に見ていこう。どれも「目安」じゃ。
たしかに、「残業少なめ」って書いてあっても、今の職場と比べてどのくらい少ないのかは分からないですもんね。まず自分の今の数字を出す、と。
測り方は2つ:月の受付回数を営業日数と常勤換算の薬剤師数で割る。急ぐなら自分が投薬した人数を3日数える 薬剤師1人あたり1日枚数とは、薬局が1日に受け付ける処方箋の枚数を、薬剤師の常勤換算人数で割った値のことじゃ。測り方は2つある。本線は方法1で、月の処方箋受付回数を、その月の営業日数と薬剤師の常勤換算人数で割る 。厚生労働省の調査と同じ考え方じゃ。
月の受付回数って、一般の薬剤師でもすぐ見られるものなんですか? 病院だと、処方箋の枚数は薬剤部の集計を見ないと分からなくて…。
レセコンの月次集計に出る。わしが調剤薬局にいた頃も、管理薬剤師が毎月見ておった。手順は3つじゃ。
月の処方箋受付回数を確認する。レセコンの月次集計に出る数字で、管理薬剤師は把握している その月の営業日数で割る。平日と土曜半日の和で数える。厚生労働省の調査では、令和2年9月を22日として計算した 薬剤師の常勤換算人数で割る。非常勤は週の所定労働時間で換算する。週20時間なら0.5人 受付回数を、その月の営業日数で割って、薬剤師の人数で割る。人数は非常勤の時間も換算する、と。すぐには集計を見られない人はどうすればいいですか?
急ぐなら方法2じゃ。今日自分が投薬した人数を、退勤前にスマホに1行書く 。3日分の平均が、自分の投薬枚数のおおよその値になる。ただし、店舗の枚数を薬剤師数で割った値とは別の指標で、あくまで簡易な補助じゃ。鑑査係と投薬係が固定されている職場では使えん。例を出そう。薬剤師2人で店舗が1日40枚なら、1人20枚じゃ。1店舗の1日当たり勤務薬剤師数は平均2.7人(令和3年度の厚生労働省委託調査)じゃから、多くの薬局はこの例に近い規模になる。相談者さんの職場は3人で120枚超じゃから、1人40枚超じゃな。
2人で40枚の薬局と、3人で120枚超の薬局。同じ「薬剤師が複数いる薬局」でも、1人あたりにすると2倍違うんですね。
そこが、薬剤師の人数だけを見ても分からんところじゃ。注意点を3つ添えておく。眼科・耳鼻咽喉科・歯科の処方箋は配置基準が60枚に1人じゃから、門前がその科目なら単純に比べん。レセプト上の「受付回数」は処方箋の枚数と厳密には同じではないが、この記事では「枚数」と呼ぶ。方法2は補助で、3日数えれば正確に分かる、というものではない。
全国の分布:16〜20枚の薬局が最多、30枚を超える薬局は約17%。常勤換算では1日25.8枚 厚生労働省の令和2年度の調査では、薬剤師1人あたりの1日の処方箋受付枚数は、16〜20枚の薬局がいちばん多かった。次いで11〜15枚、21〜25枚じゃ。30枚を超える薬局は、全体の約17%。薬局の施設調査で、回答は394薬局じゃ。
16〜20枚が最多で、その前後に11〜15枚と21〜25枚。つまり、全国の薬局の多くは1人あたり11〜25枚のどこかにいるんですね。
そうじゃ。別の推計もある。常勤換算の薬局薬剤師1人が1年間に扱う処方箋は約6,200枚、年間の労働日数240日で割ると1日25.8枚じゃ。こちらは平成30年度の数字をもとにした厚生労働省の需給推計での試算じゃな。表にまとめると、こうなる。
薬剤師1人あたり1日枚数の目安(令和2年度・n=394)
1人あたり1日枚数 全国での位置 〜15枚 多数派の下側 16〜20枚 最も多い 21〜25枚 次に多い 26〜30枚 上位に近づく 30枚超 約17%・上位 40枚 配置基準の上限
読み方はこうじゃ。30枚超なら、全国で「枚数が多い側」の目安になる。相談者さんの40枚超はここに入る。ただし、枚数だけで忙しさは決まらん。在宅、一包化、処方の複雑さ、時間帯の偏り、人員体制で、同じ枚数でも重さは変わる。20枚前後なら全国の多数派と同じで、枚数以外に原因がある可能性が高い。その場合は、冒頭で挙げた3つの記事のどれかに戻ってほしい。
相談者さんの40枚超は、表のいちばん下ですね。「甘え」どころか、枚数だけ見ても全国の上位17%より上だったんだ…。
そういうことじゃ。ひとつ断っておく。この調査の資料には「眼科などの60枚基準の薬局が混ざるため、この分布から配置基準の充足率は判断できない」と注記がある。じゃから、この記事でも充足率は語らん。使うのは「自分の職場が全国のどのあたりか」を知るためだけじゃ。
処方箋1枚の処理に薬局全体で平均12分41秒。40枚分を足すと8時間27分だが、1人の勤務時間にそのまま換算はできない 同じ資料にあるタイムスタディでは、薬局で処方箋1枚を処理する時間は平均12分41秒じゃった。内訳は、受付・薬袋準備が1分08秒、薬歴確認・処方箋監査が2分26秒、計数調剤が2分33秒、監査が3分05秒、薬剤交付・服薬指導が3分29秒。5薬局・外来76枚の計数調剤のみの測定じゃ。
1枚で12分41秒…。服薬指導だけで3分半なのは、病院でも同じくらいかかるので実感があります。これを40枚だと、どうなるんですか。
40枚分を単純に足すと、8時間27分になる。ただし、これは薬局全体で処方箋を処理する時間の合計 で、受付や薬袋の準備のような事務の工程も入っておる。1人の勤務時間にそのまま換算はできん。小規模な測定で、一包化や計量調剤も含まれておらん。それでも、40枚という枚数の重さの感覚はつかめるじゃろう。少なくとも、相談者さんの「昼休み15分・19時半退勤」を、40枚超という処方箋の負荷を無視して本人の要領だけの問題とは言えん。
1人ぶんの勤務時間とは言えないけれど、40枚分の処理工程には相応の負荷があることは分かりますね。相談者さんの昼休み15分を、要領だけの問題と片づけなくてよさそうです。
そうじゃ。配置基準の40枚は上限じゃ。ただし「1日平均」は期間の平均で判定されるから、40枚を超える日があるだけで要件を満たさない、とは言えん。常に超えているなら、体制省令の要件を満たさない可能性がある、というところまでじゃ。ここは法律の話じゃから、断定はせん。さて、枚数が多い側だと分かったら、次は職場を4つの条件で絞るぞ。
求人を探すときの4つの確認:枚数÷薬剤師数・在宅の月の件数・門前の診療科と診療終了時刻・管理薬剤師採用か のんびり働ける職場は、求人票の「残業少なめ」「アットホーム」ではなく、4点で絞る。枚数÷薬剤師数、在宅の件数、門前の診療科と診療終了時刻、管理薬剤師採用か じゃ。4つに絞るのは、求人票で読めるのがここまでじゃからじゃ。それ以外は、面接・見学・転職エージェントに聞くしかない。求人票に書かれるものと、聞かないと分からないものを分けて表にした。
「求人票で読めるもの」と「聞くもの」を最初から分けておくと、面接で何を聞くかも決まりますね。
求人を探すときの4つの確認(記載がない求人票も多い)
確認項目 求人票で読めるか 面接・見学・エージェントで聞くこと ① 処方箋枚数と薬剤師数 「1日○枚・薬剤師○名」と書かれることが多いが、無い求人票も多い 常勤換算の実人数。繁忙期(冬・花粉症の時期)の枚数 ② 在宅の有無と月の件数 「在宅あり」の有無だけ 月の訪問件数。訪問中に薬局に残る薬剤師数 ③ 門前の診療科と診療終了時刻 「近隣医療機関」から読める 最終患者が来る時刻 ④ 管理薬剤師採用か 明記される 将来の管理薬剤師昇格が前提の採用か
①は、店舗合計を薬剤師数で割って、前の節で測った今の職場の数字と比べる。「1日80枚・薬剤師3名」なら1人27枚じゃ。今の40枚超から27枚なら、確かに変わる。書いていない求人票も多いから、無ければ聞く。
測った数字が、ここで比べる基準になるんですね。②の在宅は、「在宅あり」と書いてあるだけだと、どのくらい大変か分からないです。
そこが②の肝じゃ。「在宅あり」の一言では負荷が読めん。訪問中は薬剤師が薬局からいなくなるから、小規模な薬局ほど残った人の負担が大きくなる。厚生労働省の需給推計でも、その点が指摘されておる。じゃから、月の訪問件数と、訪問中に薬局に残る薬剤師数を聞く。③は、診療終了が17時のクリニック門前と総合病院門前では、処方箋の来る時間帯が違う。最終患者が来る時刻を聞くとよい。
最終患者の時刻が分かれば、退勤時刻もだいたい読めますね。④の管理薬剤師採用かどうかは、求人票に書いてあることが多いですよね。
明記されておる。のんびり志向なら避ける。ただ、一般薬剤師として採用しても、数年後に管理薬剤師を任せる前提の求人もある。それは聞かないと分からん。そして、聞いたことは数字で確かめる。転職サイトの体験談に、面接で「暇なときは早く帰れる」と言われて入社したら、実際は1人40枚超で変形労働制、定時には帰れなかった、という後悔が載っておった。「暇なとき」ではなく、枚数と人数を聞くんじゃ。
「暇なときは早く帰れる」って、言われたら信じてしまいそうです…。数字で聞けば、その言葉に頼らなくて済むんですね。
そうじゃ。4つの条件が決まったら、条件に合う求人を出してみるとよい。転職サイト診断は、まだ転職するか決めていなくても使える。転職意欲の選択肢に「まずは情報収集から」があって、重視する条件で「残業や休みを見直して無理なく働きたい」を選べば、条件に合う3社が出る。年収の条件は、次の節で下げていい額を決めてから求人票に当てるぞ。
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③の門前の診療時間で残業が毎日2〜3時間変わる仕組みや、残業の少ない薬局の構造は、こちらの記事にまとめてあります。
あわせて読みたい薬剤師の残業が多い原因は職場の構造|ワークライフバランスを改善する方法
残業が発生する4つの構造的原因と、門前の診療時間や人員体制で残業が少なくなる薬局の特徴を解説しています。
のんびり職場では年収が下がる?処方箋1枚の技術料は2,594円だが、年収は枚数だけでは決まらない 4つの条件で絞ると、次に来る不安は「でも年収は」じゃろう。「のんびり職場は給料が安い」と聞いても、なぜかが分からないと下げ幅を決められん。ここでは仕組みを1つだけ見る。調剤報酬が処方箋1枚単位で入る、という仕組みじゃ。先に言っておくと、年収は枚数だけでは決まらん。
相談者さんの先輩も「給料も下がった」と言っていましたよね。枚数が減ると、必ず給料も下がるものなんですか。
必ずではない。結論を先に言うと、枚数が少ない職場は、他の条件が同じなら店舗の技術料収入が小さい。じゃから給与の原資の一要素として、年収が下がりやすい方向には働く。ただ、実際の年収は地域の採用状況、会社の賃金テーブル、役職、労働時間、加算、会社全体の収益で決まる。のんびり働ける求人でも、今と同等以上の年収が提示されることはある。数字は次の小見出しで見よう。
処方箋1枚9,372円のうち、薬局に残る技術料は2,594円。薬剤料6,760円は仕入れがある 技術料とは、調剤報酬のうち薬剤料と特定保険医療材料料を除いた部分で、調剤技術料と薬学管理料からなる薬局の収入のことじゃ。厚生労働省の「令和6年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」では、処方箋1枚当たりの調剤医療費は9,372円じゃった。内訳は、技術料が2,594円で27.7%、薬剤料が6,760円で72.1%、特定保険医療材料料が18円。処方箋の枚数は年間で約9億枚じゃ。
1枚9,372円と聞くと大きく感じますけど、7割以上は薬そのものの代金なんですね。薬局に残るのは、4分の1ちょっと…。
薬剤料は薬の仕入れがあるから、薬局の手元にはほとんど残らん。薬価差益はあるが、小さいものじゃ。薬局が人を雇い、家賃を払い、機器を入れる原資は、技術料の側じゃ。ただし、この2,594円は全国平均じゃ。調剤基本料の区分、地域支援体制加算、後発医薬品調剤体制加算などで、薬局ごとに上下する。
店舗の技術料を薬剤師1人あたりに按分すると、1日20枚なら月約114万円、35枚なら約200万円(参考値であり給与額ではない) ここからは、ざっくりの参考値じゃ。店舗の技術料収入を、薬剤師の常勤換算1人あたりに単純に按分してみる。1人が1日20枚なら、20枚×2,594円×22日で、月約114万円。35枚なら約200万円。差は月約86万円じゃ。表にしておこう。
店舗の技術料を薬剤師1人あたりに按分した参考値(個人の売上・給与額ではない)
1人1日枚数 1人あたりに按分した月の技術料(2,594円×枚数×22日) ここから出るもの 20枚 約114万円 薬剤師の給料・事務員の給料・家賃・機器・薬の在庫の負担 35枚 約200万円 同上
月114万円と200万円…。114万円のほうから薬剤師の給料と事務員さんの給料と家賃が出ると考えると、余裕は少なそうです。
そこじゃ。ただし、この数字は店舗の技術料を1人あたりに按分しただけの参考値で、個人の売上でも給与でもない 。ここから、薬剤師の給料、事務員の給料、家賃、機器、薬の在庫の負担が出る。加算や経費は薬局ごとに違う。言えるのは2つ。枚数が少ない職場は、他の条件が同じなら給与や昇給の原資が薄くなりやすい。そして、薬剤師1人あたりの枚数を減らす、つまり人を増やす判断が、経営的に難しい。
つまり「のんびり」と「年収」は無関係ではなくて、枚数が原資に効く方向はある。でも、それだけで年収が決まるわけではない、と。
その通りじゃ。じゃから、のんびり働ける求人でも、今と同等以上の年収が提示されることはある。人が集まりにくい地域や会社なら、枚数が少なくても年収を上げないと採れんからな。先に自分の年収の下限を決めて、実際の求人で比べる。それがこの後の節でやることじゃ。
求人ごとに比べる、と。そうなると、「大手のチェーンなら原資が大きいから安泰」みたいに考えたくなります。逆に、小さい薬局は安いのかな、とも…。
どちらも成り立たん。令和7年賃金構造基本統計調査の薬剤師(男女計)は、企業規模10〜99人が586.8万円、100〜999人が562.7万円、1,000人以上が564.9万円で並んでおる。きまって支給する現金給与額の12か月分に年間賞与を足した数字じゃ。ただし、1,000人以上は平均年齢が36.2歳、10〜99人は47.0歳で、年齢構成が違う。じゃから「小さいほうが高い」とも言えん。言えるのは「規模では決まらない。決めるのは1人あたり枚数・加算・管理薬剤師かどうか」までじゃ。
規模で選ぶより、1人あたり枚数と加算と役職で見る。さっきの4つの確認と、ここがつながるんですね。
下げていい年収の額を先に決める:額面は残業代・役職分を分け、手取りは必須支出から必要額を出して、求人の額面と比べる 求人票に年収を当てる前に、下げていい額を決める。コツは、額面と手取りを分けて2段階で出すことじゃ。1段階目は額面。今の年収を基本給・残業代・役職手当に分けて、転職でなくなってもよい収入を把握する。2段階目は手取り。家賃・奨学金・生活費・最低限残したい貯蓄から、必要な年間手取りを出す。
「年収が下がるのが怖い」って、いくらまでなら大丈夫かが分かっていないから怖いんですよね。額面と手取りを分けるのは、なぜですか?
1段階目(額面):今の額面年収を基本給・残業代・役職手当に分ける。残業代は時間を売って得ていた分で、のんびり職場では消える。役職手当は管理薬剤師なら減る 2段階目(手取り):家賃・奨学金・生活費・最低限残したい貯蓄と予備費を足して、必要な年間手取りを出す 求人の額面年収を手取りに直して、必要な年間手取りを満たすかを見る 求人票の年収も今の年収も額面じゃが、家賃や奨学金は税金と社会保険料を引いた手取りから払う。額面と生活費を同じ表で足し引きしても、答えは出んのじゃ。1段階目の残業代は、時間を売って得ていた分で、残業代込みと基本給ベースの差は想像ほど大きくないこともある。役職手当は、第25回医療経済実態調査が参考になる。保険薬局(法人)の平均給料年額は、一般の薬剤師が約480万円、管理薬剤師が約726万円じゃ。ただしこの差は、役職と店舗規模の両方を含む差で、手当の額ではない。
2段階目の手取りのほうに、相談者さんの奨学金が入るんですね。月3万円なら年36万円で、家賃や生活費と足して「必要な年間手取り」を出す、と。
その通りじゃ。奨学金は必須支出の1つとして書く。それに家賃、生活費、最低限残したい貯蓄と予備費を足したものが、必要な年間手取りじゃ。額面に直すには税金と社会保険料の分を足す必要があるから、手取りシミュレーションか、今の給与明細の額面と手取りの比率で見当をつける。書き込みの表を用意した。
下げていい年収の額を決める書き込み表(額面と手取りを分ける)
項目 自分の数字 現在の額面年収(うち残業代・役職手当) 万円(残業代 万円・役職手当 万円) 現在の年間手取り 万円 年間の必須支出(家賃・奨学金・生活費) 万円 最低限残したい貯蓄・予備費 万円 必要な年間手取り(必須支出+貯蓄・予備費) 万円 求人で確認する額面年収の目安(必要な手取りを額面に直した額) 万円
出た「求人で確認する額面年収の目安」を、薬剤師の平均年収と自分の今の年収の位置に照らす。令和7年賃金構造基本統計調査の薬剤師の平均年収は566.8万円じゃ。知恵袋には「年収が相場より高い職場ほど採用基準が低い」という相談に、「転職の難易度は年収に比例しない。人が集まらず、年収を上げないと来ない職場もある」という回答があった。高年収の職場が必ず忙しいとは限らんが、人が集まりにくい職場ほど年収を上げないと来ない、という側面はある。
相談者さんの今の年収の一部は、忙しさの分だったのかもしれないんですね。それが分かれば、下がる額を「引き換え」として受け止められそうです。
そうじゃ。パートや派遣に切り替える道もあるが、この記事は正社員のまま枚数の少ない職場へ移る前提で書いておる。今の年収が相場のどこにあるかは、適正年収診断で確認できる。そのうえで、求人で確認する額面年収の目安を確定するとよい。出た目安は、前の節の4つの確認に足す5つ目じゃ。
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のんびり職場の落とし穴と、「何年のんびりするか」の決め方 最後に、のんびり職場の落とし穴を2つ見ておく。技術料の原資が小さいゆえの昇給の薄さと店舗の不安定さ、そして枚数をさばく経験が薄くなること。相談者さんの先輩の「手が鈍る」は、事実として起きうる。それを認めたうえで、備え方を見よう。
「手が鈍る」は本当に起きるんですね…。だからこそ、備え方を知っておきたいです。
技術料の原資が小さい薬局は、昇給が薄く、門前の医院が閉じると店ごと動く 前の節の構造の帰結じゃ。1人あたり枚数が少ない薬局は技術料の原資が小さいから、昇給が薄くなる。もうひとつ、門前1軒への依存度が高い薬局では、その医院の閉院や処方箋の減少の影響を受けやすい。枚数が少なくても、面対応で処方箋が分散している薬局なら話は別じゃ。
せっかくのんびり働けるようになっても、門前の先生が引退して店ごとなくなったら困ります。それは、事前に分かるものですか。
明日できる対策がある。面接・見学で「門前以外の処方箋の割合」と「この店の開局年」を聞く。数字を求める必要はない。答え方を見るんじゃ。すぐに答えが返る薬局と、言葉に詰まる薬局では、店の見通しへの向き合い方が違う。
枚数の少ない職場で数年過ごすと、枚数をさばく経験が薄くなる わしの同僚に、枚数の少ない店舗へ移って数年後、忙しい店舗へ戻った人がおる。最初の1か月は手が追いつかなかった、と話しておった。「手が鈍る」は起きる。次に忙しい職場へ戻るとき、本人の不安になるんじゃ。
先輩の「手が鈍る」は、その先輩だけの話ではなかったんですね。のんびり職場に移ったら、もう戻れないんでしょうか。
戻れる。のんびり職場でも残せる経験があるからじゃ。在宅は、件数が少なくても訪問の経験になる。OTC、かかりつけの対応、門前の科目の深掘りも同じじゃ。「何を残すか」を先に決めれば、経験は薄くならん 。なお、調剤薬局以外にも、療養型病院や企業内診療所など枚数の少ない職場はあるが、この記事では扱わん。
「何年のんびりするか」と「その間に何を残すか」を決めてから求人を絞る のんびりを「ずっと」ではなく、「今の消耗を抜けるための期間」と置くとよい。そうすると、年収の下げ幅も、経験の残し方も決めやすくなる。相談者さんなら「奨学金の返済の見通しがつくまで」が目安になるじゃろう。
期限があると、「今は枚数を減らして体を戻す時期」と自分に説明できますね。ずっとのんびりするかどうかは、その後で決めればいい、と。
何年のんびりするか その間に残す経験(在宅・OTC・かかりつけ・門前の科目のどれか) 年収の下限(前の節で出した額) 紙に書くのはこの3つじゃ。何年が正解、というものはない。この3つと、4つの確認が揃えば、求人を絞れるぞ。
まとめ:今の職場の枚数を測り、4つの確認で求人を絞り、下げていい額を決めてから動く この記事のまとめ
1 のんびり働ける職場は、今の職場の1人あたり枚数を目安に測ってから選ぶ。30枚超なら枚数が多い側 2 求人は枚数÷薬剤師数・在宅の件数・門前の診療科・管理薬剤師採用かの4点で絞る 3 年収は枚数だけでは決まらない。必要な手取りから、求人で確認する額面の目安を先に決める 4 何年のんびりして何を残すかを決めれば、落とし穴に備えられる のんびりは甘えではない。測って、絞って、決める 。今の職場の1人あたり枚数を測り、4つの確認で求人を絞り、下げていい額と期限を決める。それだけで、後ろめたさなく次の職場を選べるんじゃ。
相談者さんが同僚に言えなかったのは、「甘え」かどうかを測る物差しがなかったからなんですね。物差しは、1人あたりの枚数でした。
そうじゃ。今日やることは1つ。レセコンの月次集計で先月の受付回数を見るか、難しければ退勤前に今日投薬した人数をスマホに書く。目安がつかめたら、4つの条件と年収の目安を持って、条件に合う3社を出してみるとよい。
「のんびり」を「平均並み」と言い換えられるだけで、気持ちが軽くなります。薬局で働いている友人にも、まず枚数を数えてみて、と伝えてみます。
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